「─── 、」 「……っ、」 ゆっくりと。再び瞼を持ち上げて、私は慌てて一歩、後ろへと足を引いた。 熱を持った頬に触れていた手が静かに離れ、その間を夜風が抜ける。 その冷たさに目を泳がせれば、先輩がそれを繋ぎ留めるかのように、私の名前を静かに口にした。 「しお、り」 「っ、」 気付かれて、しまったかもしれない。 気付いて、しまったかもしれない。 ああ、私。 私は、樹生先輩のこと───