「方向、こっちであってる?」
その言葉に慌ててコクコクと頷けば、先輩が自然な様子で歩き出すから、慌てて背中を追いかけた。
「あー…もう、桜も散り始めてるね。栞は、お花見とかした?」
「(いいえ)」
「俺も今年はしなかったなぁ。去年は学校の奴らとノリでしたけど、今年は受験生だからなのか、みんな少しピリピリしてて。中々、そういう空気にならないんだよね」
家までの途中にある桜並木を歩きながら、先輩が宙を見上げて独り言のように言葉を零す。
風が吹けば散る桜は先輩の言う通り見頃を遠に過ぎていて、足元には桜の花弁(はなびら)の絨毯(じゅうたん)が広がっていた。
(……綺麗、だなぁ)
桜の花弁の絨毯の上を歩く、先輩が。
月明かりに照らされた横顔と、時折散る桜の花弁が、先輩の纏う空気をより艶やかに染めている。
(……きっと、ものすごくモテるんだろうな)
ちらりと盗み見た横顔から前へと視線を戻し、思わずそんなことを考えれば、胸の奥が針で刺されたようにチクリと痛んだ。