ゆっくりとペンを手に持ち、私はたった今書かれた文字の下へとペンを走らせる。



「(……そんな風に言われたの、初めてです。筆談なんて、面倒くさいものだと思ってました)」


「(ああ、ね。でもさ、女の子って手紙交換したりとか好きなんじゃないの?)」


「(手紙と筆談は別です。やっぱり、サクサク会話が出来たほうが楽だし、筆談の時はいつも、相手に申し訳ないって思ってました)」


「(そうなんだ。だけど、あんな長々とした手紙は書けるのに筆談は面倒くさいって、自分のことを面倒くさいって言ってるようなものじゃない?)」



サラサラと、綺麗な字を綴る先輩が左利きだということに、今更ながらに気が付いた。


私の右側に座った先輩と私の、丁度真ん中にノートは置かれている。


私は右利きだから、そのノートをずらす事もなく、お互い自然に文字を書いていけた。


……そんな、何気ないことが嬉しい。


先輩はそんなこと思ってもいないだろうけど、そんな些細な事さえ嬉しくて仕方のない私は───



「(でも、少なくとも俺は面倒くさいとは思わないよ。寧ろ、なんだかワクワクする)」



彼という人に、惹かれ始めているのかもしれない。