「(考えてみたら、筆談って周りに迷惑掛からないし、最高の会話手段だね)」


「(……え、)」


「(絶対にバレない、2人だけの秘密の会話。デジタルの機械を使うより、気持ちが伝わる気がする)」


「……っ、」



……ああ、また。また、だ。

また、先輩は。



「(栞の字、綺麗で読みやすい)」



どうしてこの人は、こうやって人の心を温める、幸せにする言葉をこんなにも簡単にくれるのだろう。


ノートから顔を上げれば、私を覗き込むようにして笑う先輩がいる。


ここ最近は毎日のように、その綺麗な顔も声も聞いている。


それなのに、こんなにもドキドキするのはここがいつもとは違う、駅でもなく電車でもない、音の少ない図書館だからだろうか。


聞こえるのはお互いの息遣い、そしてうるさいくらいに高鳴っている私の心臓の音だけだ。