「(……迷惑なんかじゃ、ありませんっ。嬉しいですっ)」


「……それなら、よかった。ストーカー的な発言すぎるかなーと思って、引かれたらどうしようかって内心焦ってたから」



携帯電話を使って文字にしなくても、彼は今の私の言葉も拾ってくれた。


表情と、口の動き、仕草から拾ってくれる。


たった、それだけのことだ。


だけど、それだけのことを少しも面倒くさがらずに、こんなにも自然にしてくれる人が現れるなんて、思っていなかったから。



「(……登録、します。絶対、絶対、します!)」


「あはは。はい、よろしくお願いします。ああ、それと、俺のことは樹生って呼んで。……苗字で呼ばれるの、あまり好きじゃないんだ」


「(わ、わかりました……樹生、先輩。本当に、ありがとうございます……っ)」


「……こちらこそ、俺みたいな奴を信じてくれてありがとう」


「(……え、)」


「それじゃあ、また明日ね。─── 栞」



この時感じた“違和感”の理由を私が知るのは、まだ先のこと。


能天気な私は“栞”と、私を呼んだ彼の背中を見つめて、高鳴る胸に、そっと手をあてた。



 *
  ゚
 *
 +:
 。
 +
 *
  ゚

 『Clematis(クレマチス)』

 美しい心