「俺の未来も何もかも、変えてくれたのは栞だよ。前に……栞が、俺の名前について話してくれたことがあったの、覚えてる?」
「……は、い」
「森林の中に凛と佇む“樹”のように、静かに強く、逞しく“生”きてほしいから、“樹生”。
それなら“栞”は……“栞”という名前が持つ意味は、何だろうって考えてた」
ああ、どうして。
……お父さん。今、どこかで聞いていますか?
どこかで、彼の声を聞いてくれていますか?
「栞という字には、野山を歩く時に、木々を折って道標にしたものっていう意味がある」
─── 『栞、っていう名前はな?栞がいつか、誰かの道標になるような……自分以外の誰かに手を差し伸べて導いていける、そんな優しい子になってほしいと思って付けた名前なんだよ』
「栞のその名前の通り、栞はいつでも真っ直ぐに俺を導いてくれた。俺の手を、ずっと掴んでいてくれた。今の俺がいるのは、栞がいてくれたお陰だよ」
いつか。いつの日か。
大好きなお父さんが願ってくれた、宝物のような意味の籠った名前に恥じない人になれたらいいと、私はずっと思ってた。
「そして、そんな俺の未来も栞に全部あげるつもりで……。栞に全てを捧げてもいいと思えるほど、俺はもう栞しか見えないんだけど、どうしたらいい……?」
今、目の前にある力強い光を宿した瞳。
─── きっと、これ以上の最大級の愛の言葉は、他にない。