「……大切なのはさ、これからだろ?」


「……、」


「変えられない過去に縛られて、変えられる未来を手放すのは間違ってると思うよ」



開かれたノートを見つめ、栞とのやり取りを思い出す。


いつだって綺麗で、スラスラと描かれる繊細な栞の字。


その一文一文を読むだけで、包まれるような温かさを感じる自分がいた。


彼女との時間を重ねるたびに交わされる、言葉と想いの一つ一つが自分にとって掛け替えのないものへと変わっていく。


それは、今まで決して感じたことのない気持ちだった。


……抱いたことのない、感情だった。


自分へ直向き(ひたむき)に向けられる想いと視線、優しさが育んだ彼女との時間。


道端のコンクリートの間に咲く、強さと儚さを兼ね備えた一輪の花のような彼女から目が離せない。


……彼女を、心の底から大切だと思っている自分。


彼女を失うことが怖いと思えば自分の気持ちを口にすることも出来ず、臆病者になった。



「……樹生なら、大丈夫だよ。俺はいつだって、応援してるから」



これが恋だと気付かない程、俺は鈍感でも馬鹿でもなかった。