「……痴漢。朝から、災難だったと思うから」 小さく零された言葉に、彼の“大丈夫?”の意味を知る。 今の彼の表情は、先程電車の中で助けてくれた時と同じもので、ああ、そうか。と、ようやく全てを理解した。 彼は、痴漢をされた私のことを心配してくれているんだ。 そりゃあ、そうだ。痴漢されて、気分は史上最低のものだった。 怖かったし、辛かったし、腹が立つ。 あの痴漢は……逃げたのかな。 思った以上に混乱していたらしく、ふと掌を見てみるとその手が小さく震えていることに、今更ながらに気が付いた。