気が付けば、俺と彼女の距離は縮まっていて。


いつの間にか、きつく握り締めていたらしい俺の拳に、栞の温かい手が触れていた。


その温度に、力が抜ける。


顔を上げればそこには眉を下げ、表情に心配を浮かべた栞がいて俺は再び小さく息を呑んだ。



「(先輩……?)」


「……何も、ないよ」


「(え?)」


「何も、ないから……」



彼女の声が、聞こえたわけじゃない。


ただ、触れているそこから伝わる体温と彼女の表情が、俺に“何かあったのか”と、そう尋ねている気がしたからそう応えただけだ。


だけどそんな俺の言葉に黒曜石のような瞳を揺らした彼女の唇が、「……でも」と動いた。



「……とりあえず、外、出ようか」



そんな彼女を見ていたら、胸が酷く締め付けられて。


俺は小さな声で彼女にそう告げると、その温かい手を引いて図書館をあとにした。



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 『Marigold(マリーゴールド)』

 嫉妬・悲しみ