道の両端には、母が落ちた側溝が、ゴボゴボと濁流を溢れさせている。

その苦しげな様に、伸二さんがどうしているのか、ふと気になった。



「伸二さんとは、仕事仲間?」

「ま、同僚だな」

「なんであなたは、私にも見えるの」



少し先を、いるようないないような、うっすらとした存在感で漂っていたテンの姿が、鮮明になる。



「対象と“近い”とな、照準がそいつにも合っちまうことが、あるんだ」

「霊感強い人のそばにいると見ちゃう、みたいな感じかな」

「あんな処理ミスの結果と一緒にされたくないがなあ」

「処理ミス?」



テンは地表に足をつけると、蒸し暑い土砂降りの中を涼しげな顔で歩きだした。



「霊ってのは、オレたちがまあ、運び損ねた魂だ。予定が急すぎて配置が間に合わなかったり、担当が未熟で、途中で落としちまったり」

「魂って、落とすものなの」

「お前なあ、こうして一対一で担当がつく時点で、けっこう大変な仕事なんだって、認識しろよ、腕だっているんだからな」



はあ、と久々に世界観のギャップに言葉を失う。

そういえば伸二さんも、腕の劣るほうじゃないとかなんとか、言ってたっけ。



「時にはオレらだって、命懸けでやるんだぜ」



テンは、ひょろっと細くて背が高い。

伸二さんよりも、頭ひとつくらい大きい。

そういう背丈の人にありがちな、軽い猫背で、先のとがったブーツでひょいひょいと歩く。

見た目の年齢は、伸二さんと同じか、少し若いくらい。


彼らの外見は、何に合わせて決まっているんだろう、と疑問が湧いた。

なぜなら、その顔立ちは、多少色味が風変りとはいえ、どう見ても「日本人」だからだ。

名前みたいに、配属先によって決まるものだと考えても、不思議じゃない。


長靴の中が、不快に蒸れてきた。

傘なんてほとんど意味をなしていないけれど、差さないと風雨で目を開けていられない。



「ねえっ、この先は、病院しかないよ」

「そこに行くんだよ」

「林太郎、どこか悪いの?」

「悪いのは、あのボンボンじゃねえ」

「え?」