はしゃぐ母に、単に流行の問題じゃないのと言いたかったけれど、やめておいた。

母は、私に自分と同じ過ちを冒してほしくないのだ。



「お母さんも、あーちゃんに浴衣を縫ってあげられる母親には、なれなかったけど」

「別にいいよ」

「でも、あーちゃんが、そういうお母さんになってくれたら嬉しい」



母は背後で帯を結んでいたので、顔は見られなかった。

助かった、と思った。

今、自分がどんな顔をしているか、自信がない。



「お母さん、あーちゃんくらいの頃、うまくいかないことを全部、自分のお母さんのせいにしてた」



力仕事なのか、声が途切れがちになる。

ぐいぐいと帯に揺さぶられるので、私は懸命に足を踏ん張ってなきゃならなかった。



「あーちゃんが産まれて、親の苦労もわかると、そんなふうに思ってた自分が恥ずかしくなった、でもその人が笑ったの」

「なんて」

「娘が女としての道を踏み外したのが、母親の責任でなくて、なんなんだよ? って」



あの自信に満ちて威圧的な声が、聞こえてきそうだ。

ひどいよね、と母が苦笑する。



「踏み外したなんて、失礼しちゃう」

「ほんとだね」



というか、半分以上自分の責任だろうに、よくもそんな台詞を吐けたものだと感心してしまう。



「最近ね、そういうこと、すごく思い出すの、はい、こっち向いて」



可愛い、と満足げに母が手を叩いた。

天真爛漫なその様子は、かつて村長に助けられた頃から、変わっていないに違いない。

あの男の目に、どれだけ愛らしく映っただろう。



「この間、その人に会いに行ったの。立派に育ってくれたあーちゃんに、こんなダメな親、いないほうがいいんだって言ったらね」



真っ赤な帯が、視界の隅で揺れる。

裏の黄色が、器用に折り返されて覗いてる。



「バカって怒られたの、子育ては、育てた子が、自分の子をちゃんと育てるのを見届けるまで、終わらないんだって」