カレー作りが無事に終わって、食事と片付けが済むと、帰りのバスに乗るまでの少しの間、自由時間になった。


キャンプ場の中に、池を囲むように設けられた遊歩道があった。

生徒たちは散り散りになって、ベンチに腰かけておしゃべりをしたり、ぶらぶらと歩いたりしている。


私と梨花ちゃんは池の周りの柵にもたれて、岩の上で日向ぼっこをしている小亀を見ていた。


「可愛いねえ」

「平和だねえ」


なんだかお年寄りみたいな会話だな、と思ってくすくす笑っていると、「なに見てんの?」という声がすぐ横でして、少し驚いた。

いつのまにか隣に立っていたのは、葛西くん。


「亀だよ。ほら、あの岩の上」


池の真ん中あたりを指差すと、葛西くんがそちらに目を向けて、「おお、ほんとだ」と笑った。

それから、ふと真剣な眼差しで私を見る。


「……あのさ、さっきは、ごめんな」

「え?」

「なんか、変な空気になっちゃって……」


お母さんのことだと分かって、「気にしてないよ、全然」と微笑みで返す。

すると、


「あ、私、先生に呼ばれてるんだった」


唐突に梨花ちゃんが声をあげたので、私は目を丸くしてそちらを見る。


「ちょっと行ってくるね、じゃあ」


梨花ちゃんは私に向かってぱちりとウインクをして、ひらひらと手を振りながら去っていく。

訳が分からなくて、ぽかんとして後ろ姿を見送っていると、「気い遣わせちゃったかな」と葛西くんが呟いた。


「え? どういうこと?」


首をかしげて訊ねると、葛西くんは「なんでもない」と小さく笑った。