なんとなく居心地が悪くて、黙って突っ立っているのも変かな、と思い、私は皮剥きを再開した。

葛西くんはかまどに薪を組み上げながらこちらを見ていて、しばらくしてから口を開いた。


「それにしてもさ、本当に包丁うまいよな。けっこう家で料理とかするの?」


何気ない調子で訊ねられたので、私もなるべく何気ない口調を心がけて、


「うん、うち、お母さんいないから、ご飯は私が作ることが多いんだ」


と答えた。

その瞬間、葛西くんの動きが止まって、沈黙が流れた。


ああ、またか、と私は思う。

また私は、相手に気を遣わせるような言い方をしてしまった。

もっと平然と、何でもないことのように、気にしていないということを伝えないといけないのに、うまく言葉が選べないのだ。


葛西くんの顔が痛ましげに歪んで、「……ごめん」と囁くように言った。


「ううん、謝ることないよ、気にしてないから。お母さんが亡くなったのはずっと昔だし」

「うん、そうなんだ……」

「それに、料理は自分が好きでやってるところもあるから、全然」


なんとか空気を変えようと言葉を続けたものの、葛西くんはやっぱり気まずそうな面持ちをしていた。


仕方がないか、と思って小さく息を吐く。

葛西くんが火起こしの仕事に戻ったので、私は材料を切ることに専念した。