ほっとして、剥きかけの人参を手の中でころりと転がすと、「霧原さん」と名前を呼ばれた。

調理台の向こう側に立っていた葛西くんが、申し訳なさそうな顔で私を見ている。


「ごめん、もしかして、気悪くした?」

「えっ」

「俺、何も考えないで騒いじゃって……嫌な思いさせたなら、本当にごめん」


葛西くんはそう言って、顔の前でぱん、と両手を合わせて謝ってきた。

私は首を横に振り、「ちがうよ」と否定する。


「嫌とか、そういうのじゃなくて……私、人見知りだし、喋るのも上手くないから、みんなから話しかけられるとどうすればいいか分からなくなっちゃって」

「ああ……そっか」

「私のほうこそごめんね、気を遣わせちゃって」

「いや、俺がごめん」


二人で真剣な顔をして謝り合っているのが、なんだかおかしくなって、私は小さく噴き出してしまった。

すると、葛西くんもくしゃりと笑う。


「あー、なんか、嬉しいな」


その呟きに、私は「え?」と首を傾げた。


彼は「いや、なんていうか」と頭を掻いて、

「霧原さんとちゃんと話せたの、初めてだからさ」

と言った。


「あ……そうだよね。ごめんね、私、本当に人見知り激しくて……変わらなきゃとは思ってるんだけど」


我ながら情けないなあと思いながら答えると、葛西くんは「まあ、人それぞれじゃね?」と笑い、また私の手もとに視線を落とした。