でも、葛西くんは気にした様子もなく、「すげえ、すげえ」と繰り返していた。

それから顔をあげて、他のメンバーに「なあなあ、見てみろよ」と声をかける。

それぞれの作業をしていたみんなが、「なになに?」と調理場に集まってきた。

その中には、飯ごうに入れる米を洗っていた梨花ちゃんもいる。


「見ろよ、すごくね? 霧原さんてさ、めっちゃ包丁の使い方スムーズなの!」

「本当だ!」

「ええ、すごい、慣れてるね!」


みんなが私の手もとを見ながら口々に言っている。

ものすごく恥ずかしくて、手が小さく震えはじめた。


どうしよう、やめたい。

でも、みんなが見ているのにやめたら、変に思われるかもしれない。


恥ずかしさと緊張で、顔が火照るのを感じる。

耳の奥でどくどくと脈打つ音がした。


もうだめだ、と思ったときに、「はいはい、終了!」という声が弾けた。

梨花ちゃんの声だ。


「早く仕事に戻って、みんな。作るの遅れたら、食べる時間なくなっちゃうよ」


その言葉にみんなが持ち場へ戻りはじめたので、私はほっとして包丁を下ろした。


梨花ちゃんを見て「ありがとう」と呟くと、「気にしないで」と微笑みを返された。


梨花ちゃんは本当に人をよく見ている。

注目されて私がパニックになりかけているのを見抜いて、ああいうふうにみんなの注意をそらしてくれたのだ。


いい子だなあ、と改めて感動した。