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その日、久しぶりに何時間もピアノを弾いた。
最近は、梨花ちゃんたちと仲良くなったのをきっかけに学校が楽しくなって、感情をぶつけるように弾くこともなくなっていた。
でも今日は、雪夜くんの言葉がいつまでも胸の真ん中に居座っていて、気持ちの収拾が上手くつけられずにいた。
だから、ピアノに触れることで心を落ち着けたかったのだ。
純白の鍵盤と、艶めく黒鍵盤をそっと指で撫でるだけで、波立った心が少しずつ凪いでいく。
とん、と指を落として、思い付くままにいくつかの曲を奏でた。
その間も、雪夜くんの面影が何度も頭の中にちらつく。
出会った瞬間から、私に対する拒否感を隠さなかった彼。
でも、勉強会を初めて以来、少しずつだけれど、距離が縮まっているような気がしていた。
近づけた、と思っていたのに。
『お前のことは絶対に助けない』と言った雪夜くんの目を思い出す。
誰も足を踏み入れない森の奥のように静かで、遥か昔に忘れられた湖のように深い、きれいに澄んだ瞳。
その瞳のまっすぐさこそが、私を助けないと言った言葉は彼の本心なのだと、物語っているようだった。