「志望動機なんて、大した問題じゃない。なんでここの高校にしたかなんて、どうでもいい」


雪夜くんは淡々と言った。

梨花ちゃんはぱちぱちと瞬きをしてから、「ま、たしかにそうだよね」と頷く。


「ここに来た理由が何であれ、今ここに皆がいるってことが大事なんだよね。あ、私なんか今、いいこと言ってない?」


梨花ちゃんが冗談ぽく言うと、嵐くんが「自分で言うな!」と彼女の肩を軽く叩き、それでこの話は終わった。


じゃれあう梨花ちゃんと嵐くんを横目に、私は雪夜くんに注意を向ける。


雪夜くんは私になど関心のかけらもないようで、ぼんやりと窓の外を見つめていた。

その横顔に、「雪夜くん」と声をかける。

彼は一瞬ぴくりと肩を震わせてから、ゆっくりと振り返った。


「さっきは、ありがとう」


私が小さくお礼を言うと、雪夜くんは怪訝そうに眉をひそめた。


「助けてくれたんだよね? 私が、志望動機忘れちゃって、答えに困ってたから」

「……何の話? お前の勘違いじゃないか」

「そうかな」

「そうだよ。俺はお前を……絶対に助けたりしない。絶対に」


雪夜くんがきっぱりと言った。

その言葉の意味を理解して、胸がぎゅっと縮んだような気がした。


べつに、雪夜くんに助けて欲しいだなんて思っているわけじゃない。

そんな図々しいことは思っていない。


でも、『絶対に助けない』と言われたことは、さすがにショックだった。


どう答えればいいか分からず、私は薄い笑みを浮かべて俯いた。

雪夜くんは、深くてまっすぐな瞳で、ただ静かに私を見ていた。