それは、うちには皆と違ってお母さんがいない、ということを残念に思うというわけではなくて。

うちの話をした瞬間に、和気あいあいとしていた楽しい雰囲気が凍りついてしまうことを、知っているからだ。


小学生の頃も、中学に入ってからも、何度もそういう場面があった。

皆に気まずい思いをさせたくないので、家のことを訊かれるまではなるべく話さないようにしていたけれど、仲良くなって一ヶ月もすると、だいたい家族の話になる。

いつまでも隠しておけることではないし、嘘をつくのもおかしな話なので、結局、私は本当のことを言っていた。


『うちはね、小さい頃にお母さん死んじゃったから、お父さんだけ。お父さんは普通のサラリーマンで、いつも優しいけど、悪いことするとすごく怖いよ』


なるべくさらりと流すように、平然と、微笑みながら言うことにしていた。

『べつに私は気にしてないから、みんなも気にしないで』と伝えたくて。


それでもやっぱり、みんなはさっと笑顔を消して、一瞬、無言になって、それから気の毒そうな顔になって、『ごめん………』と謝るのだ。

私は気にしていないのに。


むしろ、そんな顔をするよりも、普通に聞き流してほしいのに。

せっかく楽しく会話していたのに、盛り下げてしまって申し訳ないな………と、私はいつも悲しく思っていた。