なんでお礼を言われるんだろう、とは思ったけれど、本当に嬉しそうな表情をしている梨花ちゃんを見ると、何も言えなくなる。


「……お前も色々あるんだな」


私たちのやりとりを黙って見ていた嵐くんが、梨花ちゃんの顔を見ながら呟いた。

梨花ちゃんは、「なに、急に真顔になって」と笑ったものの、否定はしなかった。


「そりゃあるだろ、誰にでも」


いつもの素っ気ない調子でそう答えたのは、雪夜くんだった。

それきり、誰も何も言わない。

その沈黙が不思議と心地よくて、私も何も言わずに勉強に戻った。



十二時前まで各自で課題をしてから、「腹が減ってきた」という嵐くんの一言でいったん勉強会を切り上げ、外に出ることにした。


「せっかくだし皆で食べない?」


と梨花ちゃんが言うと、嵐くんが「おう、いいなそれ」と答えた。


「美冬は?」と梨花ちゃんに訊かれて、「私は大丈夫」と頷く。

嵐くんが「雪夜もいいだろ?」と言うと、雪夜くんも無言で頷いた。


「あっ、お母さんに連絡しとこう。ご飯つくっちゃってるかもしれない」


梨花ちゃんがそう言って携帯をバッグから取り出す。

嵐くんも「あ、俺も連絡いれとかないと」と鞄の中を探りはじめた。