「……なんで笑うんだよ」


雪夜くんが低く声をあげた。

私が「なんでもない」と首を振っても、「嘘つけ。言えよ」と不機嫌そうに促してくる。


「ごめん……だって」

「なんだよ」

「そんな本格的なヘッドフォン使ってるのに、音楽好きじゃないなんて、なんでそんな嘘つくのかなって……」


長い前髪の向こうからじっと見つめられて、なんだか居心地が悪いけれど、雪夜くんが黙って待っているので、私は話し続けるしかない。


「もしかして、好きって言うのが恥ずかしいのかなって思ったら、」


なんだか可愛く思えてきて、という最後の一言は、言わないほうが得策だろうと思って、飲み込んだ。


雪夜くんは眉をひそめて、

「……そんなわけないだろ。本当に、別に好きじゃないだけだ。音楽なんか、まったく興味ない」

と一言一言を噛みしめるように言った。


うそだ、絶対好きでしょう、と言いたかったけれど、私は「そうなんだ」と頷いた。

あまりにも頑ななので、これ以上訊いたら悪いような気がした。


そのとき、向こうから「美冬、雪夜!」と呼ぶ声がしたので、私たちは同時に振り向く。

改札を出る乗客たちの列に並んでいる梨花ちゃんが、明るい笑顔で手を振っていた。


雪夜くんと二人きりの時間はなんとなく気まずかったので、彼女が早めに来てくれたことに心の中で感謝する。