改札を出た雪夜くんは、どうしようか、というように少し足を止めて、それから諦めたようにこちらに向かってきた。

私と視線を合わせないようにしながら近づいてきた彼に、勇気を出して「おはよう」声をかける。


「……ん」


雪夜くんはかすかな声をもらしただけで、すぐに私から顔を背けた。

思った通りの反応だったので、すこしおかしい。


そっぽを向いている雪夜くんの姿を、じっと観察する。

無地の白いTシャツに、深い色の細身のジーンズ。

すごくシンプルな格好。


でも、一つだけ、とても目立つものがあった。

首にかけられた、大きなヘッドフォンだ。


「――音楽、好きなの?」


何気なく訊ねると、雪夜くんははっとしたように顔をあげて、私を見た。

なにも答えないので、私はもう一度くりかえす。


「音楽聴くのが好きなの?」


雪夜くんは視線を落とし、「……べつに」と呟いて、ヘッドフォンを外して鞄の中にしまう。


「べつに、好きとかじゃないし」


なぜか必死に否定するような返事を聞いた私は、次の瞬間、小さく噴き出してしまった。


「……なんだよ?」


雪夜くんが不機嫌な声をあげる。

私は、ううん、なんでもない、と首を振ったものの、どうしても笑いがこみあげてくる。