「お姉ちゃん、なんか良いことあった?」


台所でサラダ用の野菜を切っているとき、部活から帰ってきた佐絵が、私の顔を見るなりそう言った。


「え? な、んで?」

「いや、なんか、嬉しそうな顔してるから」


佐絵のよく日に焼けた健康的な肌色の顔が、ぐいっと近づいてきて、私を覗きこむ。


「ええ? そうかな? 佐絵の気のせいじゃない?」


私はそう答えて包丁を握り直したけれど、佐絵は「そうかなあ?」と首をかしげている。


「ま、いいけど。今日のごはん、何?」

「肉じゃが」

「マジで? やったあ!」


佐絵はにこにこしながら荷物を降ろしてリビングの隅に置いくと、キッチンにやって来て私の隣に立った。


「なんか手伝うよ」

「いいよ、大丈夫。部活で疲れてるでしょ? もうすぐできるからゆっくりしてて」

「じゃ、ごはんの用意しとく。お父さんも帰ってくるでしょ?」

「うん、さっき連絡きたから、もうすぐ着くと思う」


佐絵は「オッケー」と頷いて手を洗い、食器棚からごはん茶碗を取り出しはじめた。


「お母さんの分もね」

「分かってるよー」


炊飯器の横に、四つのお茶碗が並ぶ。

お父さんとお母さん、私と佐絵の分。


お母さんは亡くなっているけれど、私たちは毎日、仏壇に食事を供えている。

自分の食事が終わったらそれを三人で取り分けるのが、我が家の日課だ。