ぽかんとして見送る私と梨花ちゃんに、嵐くんが「ごめんな」と困ったような笑みで言う。


「俺が調子のったから、空気悪くなっちゃったな」

「なんで嵐が謝るの? どう考えても悪いのは雪夜でしょ」


梨花ちゃんが眉をひそめて言い返すと、嵐くんは首を横に振った。


「いや、俺が、あいつの気に障るようなこと言ったから」

「え? どこが?」

「うーん……」

「ていうか、雪夜がコミュ障すぎるのが悪いんでしょ」

「それはそうだけど」


嵐くんがぽりぽりと頬のあたりをかき、それから「でもさ」と口を開いた。


「まあ、あいつのこと、あんまり悪く言わないでやってよ。じゃ、俺、あいつ追いかけるわ」


そう言って嵐くんは手を振り、ぱたぱたと廊下を駆けていった。


「……なんなんだろ。嵐と雪夜って、よく分かんないよね」


梨花ちゃんが独り言のように呟いた言葉に、私もこくりとうなずく。


「あんまり話さないくせに、嵐って雪夜のこと理解してるみたいな言い方するよね」

「うん……そうかも」

「いつから仲良かったのかな? 意外と昔からなのかもね。ま、どうでもいいけど」


梨花ちゃんは興味を失ったように話を切り上げ、「帰ろっか」と教材を片付けはじめた。