否定するために小さく首を横に振るのに、梨花ちゃんは「可愛いー、好きー」と繰り返してくれる。

それを聞いて、自分でも驚くほど胸が高鳴って、恥ずかしくて顔から火が出そうになった。


好き、などという言葉を言われたのは、たぶん生まれて初めてだ。

家族にだって言われたことはない。


お父さんは寡黙な人で、私たちのことを大切に思ってくれているのは伝わってくるけど、わざわざ言葉に出して愛情表現をするようなことはない。

妹の佐絵はよくしゃべる子だし、子供の頃から私によく懐いてくれているけれど、性格的に、改まって『好き』などというタイプではない。

お母さんは、もしかしたら言ってくれていたのかもしれないけれど、幼かったからよく覚えていない。


だから、私が記憶している限りでは、誰かから『好き』という言葉をかけられたのは、初めての経験だ。


どきどきしながら顔をあげると、嵐くんと雪夜くんもこちらを見ていた。

それでさらに恥ずかしさが増して、息苦しいほどになる。


「美冬、顔、真っ赤だよ」


嵐くんがくくくっと笑いながら言った。


「好きって言われて照れちゃったの?」


と梨花ちゃんがからかうように言う。

雪夜くんは相変わらず無口で無表情。


「うん……誰かに、好きなんて言ってもらえたの、初めてだったから」