よく分からない。

口をききたくない、というのは、嫌い、ということではないのだろうか。


「……話したくないだけで、嫌いとかイヤってわけではないってこと？」


染川さんが訝しげにつぶやく。

遠藤くんは何も言わずに頷いた。


「ま、そういうこともあるんだよ、男には！」


今まで黙っていた三浦くんが、唐突に明るい声をあげる。


「女には分からないだろうけど、男ってのはデリケートでロマンチストだからな。色々あるんだって！」

「はあ？ 意味わかんない」

「分かんなくてもいいんだよ。ただ、全ての人間を理解できるわけじゃないってことだけ分かってれば、それでいい」

「……まあ、それはそうだよね」


三浦くんの言葉に、染川さんが頷いた。


「ひとの気持ちなんて、本当は分からないもんね。他人を全部理解するなんて、無理だよね」


彼女の声音は妙に真剣で、もしかしたら染川さんはそれでつらい思いをしたことがあったのかな、と思った。


「そうだよ。他人の気持ちは本当の意味では理解できない」


と、三浦くんが染川さんの言葉に続ける。


「でも、理解できないってことを分かってるか分かってないかは、大きな違いだから。相手が自分には想像もできないような思いをしているかもしれないって、ほんの少し思うだけで、気づかずに人を傷つけてしまう可能性が、大きく減る」


すごいな、と心から思った。

この二人は、ふだんからこんな難しいことを考えているのだろうか。