「……霧原、美冬です。ええと……力になれるか分からないけど、これからよろしくね、遠藤くん」


そっぽを向いている遠藤くんを見つめながら言ったけれど、案の定、なんの反応もしてくれない。

なんて冷たい横顔なんだろう。

私は小さく息を洩らした。


「……美冬って、可愛い名前だね!」


いきなり染川さんが声をあげたので、すこし驚いて私はそちらに視線を向ける。


「そんなに可愛い名前なのに、呼ばないのもったいないな。ねえ、これから美冬って呼んでもいい?」


唐突な申し出に私は目を丸くした。


私のことを下の名前で呼ぶのは、家族と親戚と、あとはほんの数人の幼馴染みだけだ。

でも、親戚にはあまり会わないし、幼馴染みたちとは中学や高校で学校が離れてしまったから、今、日常的に私を『美冬』と呼ぶのは、お父さんと妹くらいだ。


だから、染川さんの提案は私にとっては予想外で、なんだか落ち着かなくなってしまう。

動揺して何も言えずにいると、


「……だめ?」


染川さんが私の顔色を窺うように覗きこんできた。

私は慌てて首を横に振る。


「だめなんかじゃないよ! ただ、ちょっとびっくりしただけで……むしろ、嬉しいよ」


そう、嬉しい。

名前で呼んでもらえるだけで、すごく距離が縮まったような気がする。

染川さんがそんなふうに距離をつめてきてくれたことが嬉しかった。