「かまいません。なんだって差し上げます」


涙に滲んだ声で、君は迷いなくはっきりと答える。

それが悲しい。
そんなことは言わないでほしい。

でも、この身体はもう動かず、吐息のように細い声すら出すことができなかった。


「神様。あなたの望むものを、なんだって捧げます。――を助けてくれるのなら、なんだって」


うつろに目を開けていることさえできなくなって、ゆっくりと瞼が下りてくる。

君の声だけが、世界の全てになる。


「――を救うためなら、なんだってします」


ちがう。
君にそんなことを言わせたかったんじゃない。


「どんなに恐ろしい目に遭っても、どんなに苦しいことがあっても、少しもつらくない。たとえなにを失っても、なんとも思わない」


そんなことを、言ってはいけない。


「――以外のものなら、なにを失ったって惜しくはありません」


そんなふうに思われたら、とても悲しい。

とても苦しい。


君には、もうこれ以上、失ってほしくない。

君には、もう何ひとつ、失ってほしくない。


君は、もう十分、失ってきたんだから。

大切なものを、たくさん、たくさん、失ってきたんだから。


「どうしても助けたいんです。―――だけは、どうしても、助けなくてはならないんです」


ちがう。ちがう。
そんなことはない。


だって、君こそが一番なのに。

何よりも大切なのに。

誰よりも幸せになってほしいのに。