遠藤くんはみんなに見られていても一向にかまうことなく、平然と自分の席までやってきた。

そのまま、昨日と同じように音を立てて椅子に座り、だらりと背にもたれた。


「ところで、遠藤。それはいいんだが、残念なことに遅刻だぞ」


先生が気をとりなおしたように言うと、遠藤くんは小さく頷いた。


「……まあ、明日からは、チャイムが鳴る前に、な」


先生がそうつぶやいた瞬間、三浦くんが「先生、優しすぎ!」と笑い声をあげる。

それが合図になって、クラスのみんながくすくすと笑い出した。

凍り付いたようになっていた教室の空気が、一気にほどけて柔らかくなる。


三浦くんはきっと、雰囲気がかたくなってしまったのに気づいて、なんとかいつもの空気に戻そうとしてくれたんだと思う。


そんな気づかいを知ってか知らずか、遠藤くんはやっぱり、昨日と同じように窓の外に目を向けていた。


こちらをちらりとも見ずに。

冷たい横顔だけを見せて。

まるで、なんとかして私を視界に入れないようにしている、というように。


そんな自分の思いつきに気分が落ち込んだけれど、私は自虐的な考えを頭の片隅に追いやって、一時間目の授業の準備を始めた。