一歩踏み出すと、足許で小さな物音が鳴った。

雪夜くんが振り向く。


私は電話を投げ出して走った。


「雪夜くん」


愛しい名前を呼んで、その背中に抱きつく。


「……美冬」


愛しい声が私を呼ぶ。

それだけでもう、何もかもがどうでもよくなった。


「雪夜くん、お願い、一緒にいさせて」


私の声が雪夜くんの背中を濡らす。

私を守るために負った傷痕の残る背中を。


雪夜くんがゆっくりと身体を動かして、私の肩をつかんで正面に向き直った。


雪夜くんの綺麗な瞳がまっすぐに、間近で私をとらえる。


「一緒に……いてくれるのか」


かすれた声が、薄く開いた唇の隙間から洩れた。

震える唇をそっと指で触れると、雪夜くんの手が私の指を柔らかくつかんだ。


そのまま、彼の頬に手を押し当てられる。

冷たく凍えた頬だった。


そこに一筋の涙の雫が伝う。

温かい涙だった。


「俺なんかと一緒に……いいのか」


なんて綺麗な涙なんだろう。

なんて悲しい涙なんだろう。


私はこの涙を、この涙を流させる悲しみを、消してあげたいのだ。


「私が一緒にいたいの。雪夜くんといたいの」


言い聞かせるように言って、彼の背中に手を回して、抱きしめた。