困り果てたように言ったその声は、かすれて、どこか泣きそうに聞こえた。


「分かるよ。だって自分のことだから。私には雪夜くんしかいない。雪夜くんは私にとって特別」

『……そんな、わけ……』


小さく息をのむような音が聞こえた。


私は電話を両手で包み込み、雪夜くんの耳許で囁きかけるように言った。


「雪夜くん、お願い。側にいさせて。それだけでいいから。一緒にいたいの」


唇に落ちた雪が冷たい。

一度息をついて、自分の白い息が夜空に消えていくのを見つめた。


「雪夜くん……会いたいよ」


泣きそうになる声を必死にこらえる。


「会いたい。……ねえ、雪夜くんは?」


電話の向こうは静まり返っていた。


永遠のように思える時間が、静かに流れていく。

私はもう何も言わずに、ただひたすらに待った。


神様、どうか、奇跡を起こしてください。

そう祈りながら。


どれくらい経っただろう。

消え入りそうに『美冬』と呼ぶ、絞り出すような声が、私の鼓膜をそっと揺らした。


『――会いたい……』


私はこらえきれない嗚咽を手で押さえ、うん、と答えた。


『会いたい……俺も、会いたい。美冬に会いたい』


涙で前が見えなくなった。

私は電話を耳に押し当てたまま、教会の扉を開けて中に入る。


パイプオルガンの前に、ギターを抱えて座り込み、雪の舞う空を見上げる雪夜くんがいた。