何度も滑って転んだけれど、痛くもかゆくもない。


永遠に続くように思える長い長い坂道をのぼっていくうちに、その音はどんどん大きくなった。

幻聴じゃなかった、と安堵すると、涙が出そうになった。


でも、まだ泣かない。


教会の壊れた屋根が見えてきた。

私は歩を緩め、雪道を一歩一歩、踏みしめる。


教会の前に立つと、その屋根に空いた穴から、入り口の扉の隙間から、漏れ聞こえてくる懐かしい音。


雪夜くん、と唇で囁いた。


雪夜くんの歌声と、彼の手が奏でるギターの音に包まれながら。


彼が弾いているのは、二人で作ったあの曲だ。


私は震える指でまた電話をかけた。

教会の中から聞こえてくる音がやむ。


しばらくしてから通話がつながった。


『……もうかけてくるな』


雪夜くんが低く告げた。

そのまま切られてしまいそうな気がして、私は「待って」と小さく叫んだ。


「雪夜くん。好き。あなたのことが好き」


気がついたらそう言っていた。


「こんなふうに人を好きになったのは初めてなの。いつも雪夜くんのことばっかり考えてる。いつだって側にいたい」

『……美冬、』

「本当だよ。記憶をなくしたはずなのに、雪夜くんに再会してから、いつも雪夜くんのこと考えてた」


雪夜くんは何も答えない。

きっとすごく困った顔をしているんだろう。


「雪夜くんとのことは忘れてたはずなのにね、また好きになっちゃったの。私はきっと雪夜くんのことしか好きなれないんだよ。これからもずっと、一生」

『……馬鹿なこと言うな。そんなはずないだろう』