私たちが共に過ごしたあの教会を目指して走りながら、私は雪夜くんに電話をかけた。


嵐くんに教えてもらったけれど、勇気が出なくて、一度もかけたことがなかった番号。

初めてその番号に電話をかけた。


お願い、出て、と願っていると、ふいにコール音が途切れた。


『……はい』


いつもよりも少し低く聞こえる。

でも、雪夜くんの声だとすぐに分かった。


嬉しくて喉が震えて、うまく声が出せない。


『もしもし?』


電話の向こうで、雪夜くんが怪訝そうな声をあげる。

私は慌てて「雪夜くん」と答えた。


『……美冬、か?』


少しかすれた声が耳許で私を呼ぶ。

それだけで嬉しくて、なぜだか泣きたくなった。


「雪夜くん、あのね」

『……なんだよ。なんで電話なんか……どこで俺の番号……』


戸惑っているのが声で伝わってくる。

私は彼の疑問には答えず、「今どこにいるの?」と返した。


『……どこだっていいだろ』


不機嫌そうな返事。

でも、それが彼の本心ではないことは、私には分かる。


「雪夜くん」


私はもう一度、ありったけの気持ちをこめて、その名を呼んだ。

電話の向こうに沈黙が流れる。

困った顔をしているのが分かった。


それでも私は、きみに、


「会いたい」