お父さんは私の手から手紙を受け取り、二枚目の便箋をじっと見つめた。


「『あなたの大切な人に、ありったけの愛を注いであげて。それがきっと、あなたの一番の幸せになるから』……この言葉は、一度見たら忘れられなかった。ずっと父さんの心に刺さっていた」


手紙を閉じて、お父さんが深く息を吐いた。


「……それなのに、お前と雪夜くんのことを知ったとき……どうしてもこの手紙を美冬に読ませる気になれなかったんだ。これを読んだらきっと美冬は雪夜くんのもとへ行ってしまうだろうと思ったから……」


ごめんな、とお父さんはもう一度呟いた。


「雪夜くんは何も悪くない。親と子供は別の人間だし、美佐子の事故のことと雪夜くんは無関係だ。それは頭では分かっていた、だけどどうしても、心がついていかなったんだ。おれは雪夜くんを笑顔で迎え入れることができなかっだ」


私は首を横に振る。


「それは仕方がないよ。私だってお父さんの気持ちは理解できるよ……」

「……ありがとう」


でもな、とお父さんが続けた。


「あの日……今年の、二月か。お前が気を失って雪夜くんに連れられて帰ってきた日、自分の愚かさと浅はかさを思い知って、どうしようもないくらい後悔したよ」


思いも寄らなかった言葉に、私は目をあげる。

あの日というのは、私と雪夜くんが崩れた教会の下敷きになった雪の日のことだろう。


「後悔って……?」

「ああ、そうだよ。雪夜くんがどれほど美冬のことを大切に想ってくれているか分かったから」


私はそのときのことを覚えていない。

雪夜くんとお父さんの間に何があったのだろう。