「美冬の誕生日にあげるんだって言って、母さんは張り切って書いていたんだよ」


お父さんが懐かしそうに目を細めた。


「でも、書き終えてから読み直して、『やっぱりこの内容はまだちょっと早かったかな』って笑ってな。『美冬が大きくなってから渡すの』って言って、鏡台の引き出しにしまったんだ」


丁寧に折り畳まれた紙をそっと開く。

ぎっしりと文字のつまった便箋が二枚、長い手紙だ。


「……まさかその日の夜に、……事故に遭うなんて、思ってもみなかったな」


お父さんの呟きが胸に刺さった。

手紙は『ハッピーバースデー、美冬ちゃん』という書き出しで始まっていた。


読む前に目を閉じて、呼吸を整える。

お父さんの声だけが耳に響いてきた。


「母さんの葬儀が終わってしばらく経ってから、その手紙のことを思い出した。読んでみて、その内容を知って、美冬がその意味を理解できるころになったら渡そうと思って、大事にとっておいたんだ」


目を開けると、お父さんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「……お前と雪夜くんのことを知ったとき、その手紙のことが頭をよぎったよ。でも……渡せなかった。渡すべきだったのに、どうしても渡せなかった。ごめんな」


どういう意味なんだろう。

胸の高鳴りを感じながら、私は便箋に目を落とした。