私が口を閉ざすと、無音の時間が訪れた。

しゃくりあげる私の嗚咽がリビングに響く。


何も言わずに私の言葉を聞いていたお父さんが、ゆっくりと顔を上げた。

それから私の頬を濡らす涙を大きな掌でぬぐう。


お父さん、と呟いたら、頭を柔らかく撫でられた。


「……泣くな、美冬。って言っても、父さんが美冬を泣かせてるんだよな」


困ったような顔でお父さんが笑った。


「ごめんな、美冬。ずっと苦しめてたんだな」


そう言ったお父さんが立ち上がり、リビングを出ていく。

一階の奥にある書斎のドアを開ける音がして、しばらくしたらお父さんが戻ってきた。


その胸にはピンク色の封筒が大切そうに抱かれていた。


「……美冬、許してくれ。これをお前に見せる勇気がなかった、弱くて馬鹿な父さんを……」


お父さんは私の前に膝をついて、それを差し出す。

受け取って見てみると、端に花のイラストが書かれた可愛らしい封筒だった。


表には宛名はない。

何気なく裏返して、心臓がどくんと音を立てた。


『美冬へ。お母さんより』


少し丸みを帯びた文字で、そう書かれていた。

私や佐絵の持ち物に名前を書いてくれていたものが残っているから、見ればすぐに分かる。

お母さんの字だった。


「これ……なに?」


見上げて訊ねると、お父さんが目を細めて封筒を見つめていた。


「母さんがあの事故の日に書いてた手紙だよ」

「え……?」


開けてみなさい、と言われて、私は震える指で封筒から便箋を取り出した。