「美冬、大丈夫か?」


名前を呼ばれて、私はぼんやりと顔をあげた。


目の前がぱっと明るくなって、突然の眩しさに目を細める。


「どうしたんだ、電気もつけないで」


お父さんが心配そうに顔を覗きこんでくる。

その言葉で、私は帰って来たまま真っ暗なリビングの床に座り込んでいたのだと理解した。


「……お父さん」


声が震えていた。

お父さんは「具合が悪いのか?」と私の額に手を当てた。


「うーん、熱はなさそうだが……」

「お父さん、あのね」


どうした? と首をかしげて、私に優しい眼差しを向けるお父さん。


ごめんなさい、という言葉が勝手に唇からこぼれ落ちた。


「美冬……?」


お父さんの肩の向こうには、ピアノの上から私を見つめるお母さんの写真。


胸の奥が痛い。


お父さん、ごめんなさい。

お母さん、ごめんなさい。


それでも私は……。


「――雪夜くんが……」


その名前を呟いた瞬間、お父さんの目が大きく見開かれた。


「……美冬。彼のことは……終わったんじゃ、なかったのか」


呆然としたようにお父さんが言った。

私は静かに首を横に振る。


「……忘れてたの。でも……終わってなかったの」


雪夜くんの顔を思い浮かべるだけで、目頭が熱くなって視界がじわりと滲んだ。


「私ね……やっぱり、雪夜くんのことが、好きなの……」