シアターに入り、座席の間の通路を歩いていくと、雪夜くんの頭が見えてきた。

近づいていくと、表情のない横顔がぼんやりとスクリーンを見上げている。


直視できなくて俯いたまま飲み物を渡すと、「ありがとう」と囁く声が聞こえた。


隣に腰を下ろすと、雪夜くんがおもむろに身体を動かす。

私が座りやすいように気遣ってくれたのだと分かった。


すぐに開演を告げるアナウンスが入ってブザーが鳴り、照明が落とされた。


コマーシャルが終わり、映画が始まる。

でも、私の目はスクリーンを見ているのに頭に全く内容が入ってこない。


雪夜くんのことばかり考えていた。


私を守るために、命を投げ出して身代わりになってくれた。

私を傷つけないために、全てをひとりで抱え込んでくれた。

私を苦しめないために、残酷な現実から私を守ってくれた。


お母さんの事故のことも、自分の怪我のことも、彼は私のためだけに隠し続けていた。


雪夜くんがひとりで抱えていた、悲しい真実。

雪夜くんが必死に隠していた、優しい秘密。


ねえ、雪夜くん。

これからもそうやって、誰かを傷つけないように自分だけで全てを抱えて、痛みや苦しみを隠しながら生きていくの?


そっと目を瞑ると、瞼の裏にひとつの映像が浮かんだ。


粉雪と埃の舞う壊れた教会で、冷たい光を放つ十字架を見上げる雪夜くんの姿。

溢れだした光に呑まれて消えてしまう背中。


私は目を開けた。

喉の奥が苦しい。

胸が苦しくて息ができない。