「でも、あいつがあんまり美冬のことばっかり見てるから、はたから見てて俺も我慢できなくなってきて。笠井とのこと美冬に訊いたら、雪夜のやつ今にも殴りそうな勢いで怒ってたな」


嵐くんが呆れたように笑った。

その顔がふいに曇る。


「……雪夜はさ、美冬のこと諦められないんだよ。だってあいつが初めて好きになった女の子で、あいつは美冬に出会ってから本当に変わったんだよ。よく笑うようになったし、表情が柔らかくなった。それなのに、高校に入ってからは前以上に無口で無表情になって……」


列が進んで、もうすぐ私たちの順番が来そうだった。

でも、もう飲み物のことなんて私の頭からは消え失せてしまっている。

雪夜くんのことしか考えられない。


「だから、美冬があいつのこと思い出してくれたら、もう一回うまくいくようになるかなって思って、美冬にヒントとか言ってしらとり園のこと話したんだけど……俺がしたのは余計なことだったかな」


嵐くんは悲しそうに笑った。

その表情からも言葉からも、彼が本当に雪夜くんのことを大事に思っているのだと伝わってくる。


「……でも、だめなんだよ。私と雪夜くんは、どうしたってうまくいかない……」

「どうしても?」

「……嵐くんは雪夜くんのお父さんの事故のこと、知ってるんだよね?」


訊ねると、嵐くんは深く頷いた。

それなら話せる、と思って私は口を開いた。


「雪夜くんはずっと罪悪感に苦しんでて……私のお母さんが死んだのは自分のせいだって、自分を責めてるの」


私はずっと、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

どうしようもない、抜け道のない私たちの関係について。