予想外の出来事が起こったせいで、結局雪夜くんの傷痕を見てしまったけれど、馬鹿な私は最後まで何も気づかなかった。


「あいつはさ、本当に美冬のこと……大事に思ってるんだよ。やっと怪我が治って高校に来れるようになっても、ずっと学校を休んでた理由は誰にも言わなかった。先生にも口止めしてたんだよ。もしかしたらそれがきっかけで美冬が自分のこと思い出しちゃうかもしれないからって思ってたんだろうな」


私は何も言えなくて、俯いて口許を両手で押さえたまま嵐くんの話に耳を澄ます。


「俺もあいつに頼まれたから何も知らないふりしてたけど、あいつのこと見てたら、黙ってられなくなってきて」


嵐くんがふっと笑う気配がしたので、私は目を上げた。

おかしそうに細められた目が私を見ている。


「知ってる? あいつさ、美冬が他の男子と話してるとき、すごい目で見てたんだよ」

「え……?」

「笠井とよくしゃべるようになってきたころなんて、『あいつと付き合うのかな』とかぼやいててさ。『笠井ってどんなやつ? 信用できるのか?』とか俺にしつこく訊いてきて」


そんなに気になるなら自分から美冬に話しかけろよ、と嵐くんが言ったら、それは絶対にできない、と雪夜くんは答えたらしい。


「『俺は美冬に嫌われないといけないから、とことん冷たくしないと』って言って聞かなくて……。だからずっと美冬のこと無視してただろ? まあ、それもだんだん崩れてったけど」


雪夜くんが私にだけ冷たい態度をとっていたのは、そういう意図があったのだ。