そんな、と唇から声が洩れた。

まさか雪夜くんが怪我をしていたなんて。


雪夜くんの背中と腕にあった大きな傷痕を思い出した。

確かに中学の頃の彼にはあんな傷痕はなかった。


背中と腕の怪我。それは私があの時、教会の屋根に押し潰されたときに負った怪我だ。

あの怪我は、雪夜くんが神様に願って代わりに引き受けてくれた。

そのあと私がもう一度身代わりになりたいと祈って、雪夜くんは助かったはずだったのに。


そこまで考えて、ふと気がついた。

雪夜くんはあのとき、息をしていなかった。

彼の身代わりになるということは、私が死ぬはずだったのに、私は命をとられることはなく、一部の記憶をなくしただけだった。


つまり、完全な身代わりにはなれなかったのだ。

だから雪夜くんは、命だけは助かったけれど、怪我がなくなったわけではなかったのだ。


「そんなの……全然、知らなかった」


あのとき私は気を失って、そのあとどうなったのかは全く覚えていなかった。

気がついたら家にいて、目が覚めたときには雪夜くんのことは全て忘れていたのだ。


「まあ、雪夜のことだから、美冬に心配かけたくなくて黙ってたんだろうな……。二ヶ月も入院してたんだからかなりの大怪我だったし、それを知ったら美冬が気に病むと思ったんだろ」


嵐くんの言葉が胸に突き刺さった。


私が全てを思い出してからも、雪夜くんは怪我の話なんて少しもしなかった。

彼が傷痕を隠していたのは、私に見せないためだったのだ。