思い出すだけでもつらくて、声が震えてしまう。

嵐くんが「そうか……」と呟いて、励ますように私の肩にぽん、と手をのせた。


「ごめんな、嫌な話させちゃって」

「ううん、大丈夫」

「俺さ……雪夜のことが心配なんだよ。だからどうしても気になって」


列が少し進んだ。

二、三歩前に行って、それから嵐くんを見上げる。


「どうせ美冬が思い出したなら、雪夜に口止めされたことはもう無効だよな?」


彼はにっと笑ってそう言ってから、次に真剣な面持ちになって語り始めた。


「俺は小六のときに養子として里親に引き取られて施設を出たんだけど、雪夜とは親友だったから、ときどき連絡はとってたんだ。新しい学校に早く馴染めるように色々無理もしてたし、雪夜と話すと落ち着けたから」


少し意外だった。

嵐くんの性格を考えると、どこに行ってもすぐに友達ができて輪の中心になれそうな気がするのに。


私の思いを察したように嵐くんが微笑む。


「俺さ、昔はけっこう人見知りで、知らないやつといきなり話すのとか、わりと苦手だったんだよ」

「そうなの? なんか想像できないな」

「だろ? 今の人格は、なんていうか、最初は『こういう人間なら誰とでも上手くいくだろ』っていうのを思い描いて演じてて、だんだんそれが板について通常運転みたいになっていった感じなんだ」

「そっか……」

「いきなり血の繋がらない親ができて、新しい友達に囲まれて、今までの無口なキャラだと絶対嫌われる! とか焦ってたんだよな」


明るくてリーダーシップのある嵐くんの裏にはそんな努力があったのか、と驚きを隠せない。