売店にはかなり長い列ができていた。


「けっこう時間かかりそうだね」

「うん、まあ、あと三十分くらいあるし、大丈夫だろ」


嵐くんは腕時計に目を落として答える。

それから「うーん」と首を捻り、いきなりと「駄目だ!」と叫んで私を見た。


「ごめん美冬、やっぱり我慢できない!」

「え、なに? どうしたの?」

「あのさ、野暮って分かってるけど、訊いてもいい?」


何を言われるんだろうと訝しく思いながら頷くと、嵐くんが声をひそめて囁きかけてきた。


「……雪夜とは、結局どうなったの?」


どくん、と心臓が跳ねる。


「ずっと気になってたんだけど、なかなか訊けなくて。雪夜に訊いても『何もない』の一点張りだしさ。今がいい機会だから、よかったら教えてくれない?」


嵐くんが手を合わせて頼み込んでくるので、私は「いいよ」と答える。

彼には協力してもらったので、いつかは話さないといけないと思っていた。


「美冬は、雪夜と去年まで付き合ってたこと、覚えてるんだよな?」

「うん。嵐くんがしらとり園のこと教えてくれて、それで全部思い出したの」

「そうか……。それで、雪夜はなんて?」


たった三ヶ月前のことなのに、ずっと昔のことのように感じた。

でも、その時のことは、昨日の出来事のように事細かに思い出せた。

きっと何度も思い返したからだ。


「……思い出したことは全部もう一度忘れろって。それで全部なかったことにして、普通のクラスメイトになろうって」