雪夜くんは、神様に自分の命を差し出して、私を救った。

私の身代わりになって死んだのだ。


そんなこと、耐えられるわけがなかった。

だから私は、彼と同じように、神様に祈った。


――『どんなものでも差し出すから、雪夜くんだけは助けて』と。


きっと神様は私の命を奪うだろうと思っていた。

私の命を奪って、その代わりに雪夜くんを生き返らせてくれるだろうと。


でも神様は、『それではお前の記憶を頂こう』と言った。


『お前の命は既に甦らせたものだから、奪えない。だから、お前が何より大切にしているものを――その少年と出会い、愛した記憶を、我に捧げよ』と。


それでもいい、と私は思ったのだ。


雪夜くんが助かるのなら、彼のことを、彼との思い出を、全て忘れてしまってもかまわないと。

雪夜くんが生きていてくれさえするなら。



「なんでだよ……」


雪夜くんが苦しげに呻いた。


「なんで俺を助けるなんて馬鹿なことしたんだよ。俺が死んだほうがよかったに決まってるだろ。お前には家族がいるんだから」

「そんなの関係ないよ。私は雪夜くんが死ぬのなんて耐えられなかった。だから……」

「もしも命を差し出せと言われたら、どうするつもりだったんだ!」


鋭い声が私の言葉を遮った。


「お前が……俺の代わりに美冬が死ぬなんてことになったら、どうするつもりだったんだ……」

「……それでもよかったよ。雪夜くんを助けてくれるなら私は死んでもよかった。だって、雪夜くんにはどうしても生きていてほしかったから」