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「――そうだよ。俺は、神と取り引きをした」
雪夜くんがぽつりと答えた。
考えに耽っていた私は我に返り、彼を見つめる。
「だから、目が覚めたときは驚いたよ。死んだと思ってたのに、生きてたから……」
夏の終わりの夜風がふわりと肌をなでていく。
揺れる街路樹の梢をぼんやりと見ながら、雪夜くんはひとりごとのように言う。
「俺が生きてるってことは、まさか美冬が助からなかったのかと思って、ぞっとした。……でも、見たら無傷で眠ってるだけだったから、心底ほっとした」
いつの間にか月が高くなっていて、あの日と同じように月明かりが雪夜くんの横顔を照らし出していた。
「本当に怖かったんだ。お前が俺をかばって大怪我して、どんどん冷たくなっていって……」
声が震えている。
「美冬が死ぬかもしれないって思ったとき、頭が真っ白になって何も考えられなくなった。だから、助かったって分かったときは、震えるくらい嬉しかった」
私は雪夜くんの隣に腰かけた。
「それは私だって同じだよ」と呟く。
「だって、私が死ぬはずだったのに、気がついたら雪夜くんが……真っ青な顔で倒れてて、震えが止まらないくらい怖かった」
視線をそらしていた雪夜くんの目が、まっすぐに私をとらえた。
静かに彼が言う。
「……だから、お前も神と取り引きをしたのか。俺の命を助ける代わりに、お前の何かを差し出すって……」
「そうだよ」
私は深く頷いた。
「私はどうしても雪夜くんを死なせたくなかった」