「ねえ。雪夜くんのご両親の話、聞いていい?」


私が何を言っても雪夜くんが反応してくれないので、何か彼を説得できるきっかけが欲しくて、私はそう言った。

雪夜くんは少ししてから、ぽつぽつと話し始めた。


「……あの事故の後、父さんも母さんも、おかしくなった。父さんは事故のことを思い出して毎晩夢にうなされて眠れないみたいだった。母さんは、お前の母親の葬式に行った日から鬱みたいになってた」


雪夜くんのお母さんが、加害者の妻としてあの場でどんな目に遭ったか、どんなにつらい思いをしたか、私は見ていたから少しは理解できた。


「俺は子供だったけど、二人が普通の状態じゃないのは見てて分かった。でも、どうしようもなくて……」


雪夜くんのお父さんは、『人を死なせて自分だけがのうのうと生きるなんて』と眠れないほどに苦しんでいた。


雪夜くんのお母さんは、夫が運転するのを止めればよかったと自分を責めていた。

そして、『亡くなった人は私と同じように小さな子供の母親なのに、その子たちの成長を見れなくなってしまった。私だけが雪夜の成長を見守れるなんて許されないんじゃないか』と考えた。


彼の両親はそうやって罪の意識に苛まれて心を病んで、とうとう、幼い息子を道連れにして無理心中をすることを決意した。


「車ごと海に落ちて、車の中にどんどん水が入ってきて、俺は怖くて怖くて泣きじゃくった」


雪夜くんはその時のことを思い出したのか、青い顔をしていた。

私は聞いているだけで苦しかった。


「そしたら、父さんが窓ガラスを割って、俺を外に出したんだ。『お前だけは生きてくれ、こんな親でごめんな』って言って……。その後すぐに車は水没して、二人は静かに海の底に沈んでいった」


どうして雪夜くんは、こんなにつらくて悲しい出来事にばかり襲われるんだろう。