「――あれが、雪夜くんだったんだ……」


呟くと、俯いてお母さんの写真を抱いていたお父さんが顔を上げた。


「雪夜くんは……知ってるの? 私が……」


自分の父親が事故を起こして死なせた人の娘だということ。

そんな残酷なことは口に出せなくて、言葉を呑み込んだ。


お父さんが小さく頷いた。


「お父さんが、言ったの? 雪夜くんに、本当のことを」


こんなことを言ってはいけないと思ったけれど、口にしてしまった。

責めるような口調になっていなかったか不安だった。


でも、真実を知らされて彼がどんな気持ちになったかを考えたら、どうしてもお父さんに対する複雑な気持ちが生まれてしまった。


「いや、違うよ。父さんが彼に言ったのは、『事情は言えないが、美冬のことを思ってくれているなら、もう会わないでほしい』ということだけだ」


ほっとした。

雪夜くんがつらい真実を知らずにすんだのなら、傷ついて苦しまずにすんだのなら、良かったと思った。


でも、お父さんの言葉にはまだ先があった。


「……それだけしか言わなかったが、彼は、すでに気づいていたそうだ」

「え……?」

「あの日がお前の母親の命日だということを知って、まさかと思って昔の新聞や週刊誌の記事を調べたらしい。そして、事故の被害者の名前と、遺族のことを知ってしまったと言っていた」