「その車を運転してたのは……」


お父さんの低くかすれた声が、私の鼓膜を震わせる。


聞くのが怖かった。

耳を塞ぎたくなった。


でも、とうとう私は知ってしまったのだ。


「――母さんを殺したのは、遠藤雪夜くんの父親だ」


声も出せず、微動だにできず、私は呆然と座り込んだままでいた。


大好きだったピアノの上に置かれたお母さんの写真を見つめながら、お父さんは声を震わせた。


「あの子の父親が、母さんを轢き殺したんだよ……。お前たちの母さんを、俺の愛する人を……」


お父さんはぼろぼろと涙を流し、お母さんの写真をかたく抱きしめて全身を震わせた。


その姿が、あの日のお父さんの姿と重なった。


「美佐子……美佐子……」


あの日、お葬式の日、お父さんは、冷たくなったお母さんの遺体を抱きしめて、この世の終わりみたいに泣きじゃくっていた。

出棺の時間になっても離れなくて、親戚たちに抱きかかえられて引き剥がされて。


その姿を見つめていた私に、お父さんの親友の人が教えてくれた。


『孝平は美佐子さんのことを、本当に本当に愛していたんだよ。孝平は大きな会社の跡継ぎだったから決められた相手がいて、親に美佐子さんとの結婚を反対されてた。何年も親を説得し続けたけど駄目で、それでも諦められなくて、勘当覚悟で駆け落ちみたいにして結婚したんだ』