「会ったんだね……。ねえ、どうして? なんの話をしたの? ねえお父さん、お願い、教えて」


訊ねても、お父さんは何も教えてくれなかった。


「美冬は知らなくてもいいことだ」と静かに首を振るだけ。


「世の中には、知らないほうがいいことがたくさんあるんだよ」

「知らないほうがいいって、何を?」

「それは言えない。とにかく、もう彼のことは忘れなさい。そのほうがお前は幸せでいられる」

「どういうこと? なんで雪夜くんを忘れないといけないの? そんなの幸せなんかじゃないよ……」


どうしても納得できなくて、すがりつくようにして何度も訊ねて、懇願して、そうしてやっと、お父さんがぽつりと言った。


「……お前たちの母さんが死んだときのこと、覚えてるか?」


思いも寄らない言葉に、私はきょとんとしてしまった。

どういうことだろうと不思議に思いながら、考える。


お母さんが亡くなったころの私はまだ幼くて、分からないことが多かった。


でも、葬式のときに見た、棺の中に青白い顔で眠るお母さんの姿は、目に灼きついて離れなかった。

打撲や傷でぼろぼろになった、痛ましい姿。


お父さんや親戚のおじさんたちに止められたけれど、どうしてもお母さんに会いたくて棺の中を覗き見て、あまりの衝撃で大泣きしてしまったのを覚えている。


「母さんは事故で……居眠り運転の車に轢かれて、即死だった」


お父さんの言葉に私は頷いた。

でも、頷いてから、恐ろしい予感に胸が震えて、背筋が凍った。


続きを聞きたくない。