目が合って、私は思わず声をかけた。

それからお父さんと佐絵に「しらとり園で知り合った子」と紹介した。


彼は少し決まりの悪そうな顔をしていたけれど、「遠藤雪夜です」と二人に会釈をした。


その瞬間、お父さんの顔色が変わった。

雪夜くんの名前を確認するように繰り返して、黙りこんだ。

それから「彼とはどういう関係なんだ」と私に言った。


お父さんがそんなふうに踏み込んだことを訊いてくるのは珍しかったので驚いていたら、雪夜くんが「お付き合いさせていただいてます」と唐突に答えた。


びっくりして、でも嬉しくてどきどきして、恥ずかしくて、私は俯いた。

だから、そのときお父さんがどんな顔をしていたのか、私は知らない。


その日はそのまま別れて、それから一週間は今まで通りに過ぎた。


でも、次の日曜日。

雪夜くんから電話がかかってきた。

そして、「もう会いたくない、別れよう」と唐突に告げられた。


耳を疑った。

夢かと思った。

信じられなくて、何度も聞き返した。


でも、雪夜くんは淡々と「別れる」、「もう会わない」と繰り返すだけだった。


「どうして?」と訊いたら、「どうしても」と冷ややかな答えが返ってきた。


「でも、そんな急に……理由を聞かないと、納得できないよ……」

「理由はないけど、もうお前とは会いたくない。これで終わりだ」


雪夜くんは切り上げるように言って、通話はぷつりと切れた。

呆然としたまま電話を切り、私は床にへたりこんだ。


足下にあった確かなものが脆くがらがらと崩れ去って、身体が宙に浮いているような感覚だった。