それが、私がしらとり園に通うようになったきっかけだった。


雪夜くんは基本的に無口だし、あまり笑わなかったけれど、歌うときは本当に楽しそうだった。

私もつられて、ピアノを弾くのが大好きになった。

それまではただ楽譜通りに、間違わないように弾いているだけだったのに、雪夜くんと一緒に弾くようになってから、楽しみながら弾くことを知ったのだ。


演奏が終わると彼はまた無口になって、私と喋ることもほとんどなかった。

でも、私が子供たちに誘われて遊びに加わるようになると、少しずつ会話を交わすようになっていった。


初めは、子供たちに囲まれながら。

いつしか二人きりで。


私たちはいつも、施設の食堂の隅に置いてあるピアノの前に座っていた。

雪夜くんも私もたくさん話すのは得意ではないので、お互いの好きな曲を弾いて相手に聴かせることが多かった。


彼と一緒にいると、不思議と心が安らいで、今まで出会った人の中でいちばん、居心地が良かった。


それはきっと雪夜くんも同じで。

私の前では笑ってくれることが多くなった。


彼がどきどき見せるどこか寂しげな表情を、始めの頃から気がかりに思っていたけれど、そういう顔を見せることも少しずつ減っていった。


私にだけ見せてくれる少しはにかんだような笑顔を見ると、胸がどきどきして息が苦しくなった。